早期の乳房発育と注意すべき点について
乳房発育(思春期前乳房発達)について
乳房発育(思春期前乳房発達)とは、思春期が始まる前の年齢で、乳房にふくらみやしこりが見られる状態です。多くの場合は一時的な生理的変化であり、自然に消失することが多く、治療や検査は必要ありません。 [1]。
どんな症状ですか?
- 主に5〜8歳ごろの女の子に見られますが、5歳未満でもみられることがあります[2]。
- 片側の乳輪の下に、小さくて硬いしこり(硬結)が触れ、痛みを伴うこともあります。
- 通常は数か月以内に自然に消えますが、同じ側や反対側に再発することもあります。
- まれに男の子にも見られることがありますが、これも一時的なホルモンの影響で自然におさまります[1]。
なぜ起こるのですか?
思春期の本格的な変化に先立ち、一時的に女性ホルモン(エストロゲン)の影響を受けて乳腺が刺激されることが原因と考えられています[1]。このような変化は「生理的乳房発達(premature thelarche)」と呼ばれ、医学的には異常とされません。
どう対応すれば?
乳房のふくらみだけであれば、特別な検査や治療は必要ありません。通常は経過観察で十分です[3]。ただし、不安な点があれば小児科にご相談ください。
注意すべき「思春期早発症」との違い
乳房のふくらみが単独で起こっている場合は心配ありませんが、他の発育のサインを伴う場合には「思春期早発症」の可能性があります[3]
乳房のふくらみが単独で起こっている場合は心配いりません。
しかし、以下のような発育のサインを同時に認める場合には、「思春期早発症」の可能性があり、小児内分泌専門医による検査が必要です。
【女の子の場合】
7歳6か月未満で乳房がふくらみ、さらに以下のいずれかがある場合:
- ▶ 8歳未満で陰毛やわき毛が生える
- ▶ 10歳6か月未満で月経が始まる
【男の子の場合】
- ▶ 9歳未満で精巣(睾丸)が明らかに大きくなる
- ▶ 10歳未満で陰毛が生える
- ▶ 11歳未満でわき毛やひげが生える、または声変わりが始まる
これらの症状が気になる場合は、まずは当院にご相談ください。必要に応じて、小児内分泌の専門医がいる医療機関をご紹介します。専門医療機関ではホルモン検査や骨年齢の評価、脳のMRI検査などを行うことがあります。
参考文献
- [1] Nelson Textbook of Pediatrics, 21st Edition
小児科学の国際的標準教科書。乳腺肥大(premature thelarche)の自然経過や思春期早発との鑑別に関する記述が詳しく、特に「一時的なホルモン変動により自然におさまることが多い」と解説されています。 - [2] 日本小児科学会雑誌/関連論文
日本国内における乳房発育開始年齢(平均10.0±1.4歳)などの疫学的記述に基づく。例:「日本人小児における乳房発育の開始年齢に関する研究」(J Jpn Pediatr Soc. 2010;114:1515–1521)。 - [3] 日本小児内分泌学会『思春期早発症の診断と治療の手引き』
思春期早発症の診断基準(例:7歳6か月未満での乳房発達、8歳未満での陰毛出現など)を定めた日本のガイドライン。保護者が注意すべきサインを示すうえで最も信頼できる資料です。
※「小児内分泌診療ガイドライン2021」に詳細記載。